
各種がんでのがん免疫療法の実際
がんに対するいろいろな研究が日本国内だけでなく、世界中で行われています。 研究が終了すると論文という形で報告されますが、新しい治療法の研究は数年から十数年という単位になりますので、簡単には論文としてまとめられるようにはなりません。
現在進行中の研究は多くありますが、結果として報告されているものもすでに出てきています。ここでは比較的よく耳にするがんに対して、がん免疫療法が現在どのような状況に置かれているかを、既に報告された論文などから説明します。
どちらを選びますでしょうか?
尚、それらの論文については参考文献としてpdfにまとめました。
こちらからダウンロードしてご利用ください。
(文中の 1)といった表記は、参考文献内の資料ナンバーです。
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胃がん
胃がんは日本では男性で2番目に、また女性では依然として1番に多いがんですが、欧米ではそれほど多くみられません。従って、欧米における胃がんに対する研究は、日本ほど積極的にはされておらず、ましてや免疫療法に関しては日本国内でいくつか報告された程度です。 すでに終了して報告された臨床試験の結果としては、九州大学と山梨大学のものがあります。
九州大学医学部からは人工抗原であるMAGEを用いた樹状細胞療法について報告されています。 この樹状細胞療法(単独治療)を行った8人の患者様の中で、3人に肺やリンパ節の転移の大きさが縮小し、また4人の体調が改善、4人の腫瘍マーカーが低下したというものです 。
また、山梨医科大学(現:山梨大学医学部)からは、人工抗原であるHer2を用いた樹状細胞療法について報告されています。 これは胃がん患者9人のうち、1人にリンパ節への転移が縮小していたというものです 。 さらに抗がん剤とリンパ球療法を併用した臨床研究についても報告されています。ステージ4の非常に進行した胃がん患者22名に対し、抗がん剤だけを行うグループと抗がん剤とリンパ球療法の併用を行うグループで、その治療効果を比較する研究が行われました。この報告では抗がん剤治療のみを行った方よりも2ヶ月程度生存期間の延長がみられています。
以上のように、胃がんについてはいくつかの報告で有効例が示されてはいるものの、まとまった規模での報告はまだそれほどありません。胃がんでは結果がまとまっていない研究途中のものもあり、今後の研究結果の報告が期待されています。
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大腸がん(結腸がん、直腸がん)
大腸がんに対しては、さまざまな研究が行われています。手術後の再発抑制を目的として、手術後の自己がんとBCGを一緒に利用するがんワクチン療法がいくつか行われており、大規模な臨床試験を含めて報告されています。
1990年代後半からは樹状細胞を利用した臨床試験が行われました 。さらに人工抗原を用いたワクチン療法も行われています。 しかし、抗がん剤が効かなくなった進行がん患者を対象としているため、最初から治療効果が得られるかは懐疑的でしたが、実際のところ腫瘍縮小・消失などはほとんど報告されていません。進行がんを対象に活性化リンパ球療法と、ある薬剤を併用する臨床試験が行われ、有効例が1例報告されております。
抗体療法は、近年最も進歩している免疫療法で、結腸直腸がんに対する抗体療法は最先端の分野です。 あるがん細胞の表面に特徴的な分子に対して反応する抗体(エルビタックス)を用いた治療では、抗がん剤(イリノテカン)単独よりも、併用することにより高い効果が得られています。
近年大腸がんに対しては、抗がん剤療法が非常に進歩してきたため、がん免疫療法など新しい治療の登場する機会がやや乏しくなってきていました。しかし抗体療法が突破口となり、化学療法と抗体療法の併用や抗体療法のみでの臨床効果も証明されてきています。 今後抗体療法以外のがん免疫療法でも、同じような工夫の元に臨床試験を行うことで、臨床効果を証明する機会がでてくるものと思われます。抗がん剤療法とがん免疫療法(抗体療法、自己リンパ球移入療法や樹状細胞療法など)の併用療法が今後臨床現場に応用されることが期待されます。
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肺がん
いまや日本の男性に発生するがん第1位となった肺がんでは、免疫療法の研究は著しい発展を続けていますが、実際に治療として臨床応用した報告はそれほど多くありません。これまで報告された肺がんに対する免疫細胞療法をみてみます。 1997年に報告された、千葉大学医学部で行われた臨床試験では、手術のすぐ後に、患者からとったリンパ球を特殊な処置で増殖させたものを、体に戻すと同時に、IL-2というリンパ球を増やす物質を体に投与するという免疫療法を行うことで5年生きる確率(5年生存率)を33.4%から54.4%に上げることに成功しています。
また、当院でも行っている樹状細胞を用いた免疫療法を、進行した肺がんに対して行った治療の成績が滋賀医大から発表されています。 これによると、8人の肺がん患者のうち2人(25%)に肺の腫瘍の一部縮小が示されています。
また、米国では、肺がんの細胞にGM-CSFという免疫系を刺激する遺伝子を組み入れた後に患者にワクチンすることで、33人の進行した肺がんの患者のうち3人(9%)で完全に腫瘍を消すことができたと報告されています。
まだ報告数も少なく、がん免疫療法が肺がんに有効であると証明するまでの道のりは長いですが、免疫療法が肺がんの治療の一翼を担う日も遠くはないと考えられます。
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乳がん
乳がんに対する免疫療法では、これまで様々な方法が試されてきました。最近大学病院などで行われたワクチンによる治療の結果をいくつか紹介します。
進行した乳がんの患者に対して、樹状細胞を用いた免疫療法を行った成績が滋賀医大から発表されています。それによると、6人の乳がん患者のうち1人(17%)の方に、肺へ転移した腫瘍が完全に消失したことが示されています 。 また、米国ハーバード大学では、少し方法は違いますが樹状細胞と乳がんの細胞を特殊な方法で融合させたものをワクチン(樹状細胞ワクチン)することで、進行した乳がんの患者10人のうち2人(20%)で転移した腫瘍を40%~90%小さくさせることに成功しています 。 さらに、イギリスでは樹状細胞は用いてはいませんが、乳がんの腫瘍抗原と免疫を活性化する物質を一緒にワクチンすることにより、進行した乳がん患者の平均の生存期間を、この治療を受けていない同じような患者様と比較して2倍ぐらい延長することができています。
いずれもまだ治療された人数が少なく、効果も限られていますので、今後更なる検討や改良が必要になると考えられますが、乳がんに対する免疫療法は着実に進歩してきており、将来の乳がんの有望な治療法のひとつになるものと期待されています。
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原発性肝臓がん(肝細胞がん)
原発性肝臓がん(肝細胞がん)に関して、さまざまながん免疫療法がこれまでに研究され、自己リンパ球療法やワクチン療法としても報告されています。
肝細胞がんに対する自己リンパ球移入療法では、多発性肝細胞がんに対していくつもの治療が有効であった報告があり、その中でも静脈投与ではなく肝動脈投与が推奨されることや、抗原をより認識したCTL療法がただの活性化リンパ球療法よりは有効性が高そうだといったものがあります。
また肝細胞がん術後の再発予防としては、活性化リンパ球療法を行うことで、新たな肝細胞がんの発生する(再発する)頻度を下げ、生存率を向上させる可能性があると報告されています。
これに対して、さらに治療効果をあげるべくがんワクチン療法が検討されていますが、多発性肝細胞がんに対しては、樹状細胞療法やがんワクチン療法で有効な例は報告されているものの、まだ初期段階の臨床試験による報告が主です。 また手術後の再発予防としては、B型肝炎合併の肝細胞がんで手術後の無再発生存期間が延長することも報告されています。
ただし、単独施設でかつ研究参加人数が少ないため、効果としてはあまり明確ではありません。肝細胞がんに対するがんワクチン療法単独での評価は、現在行われているものや今後の臨床試験の動向を見守る必要があります。
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膵臓がん
膵がんはヒトの悪性腫瘍のなかでも特に悪性度が高く、たとえ外科手術でがん組織がとりきれていると判定された手術(治癒切除)がなされた場合でも半年から1年の間に、多くが局所再発もしくは肝臓、肺などへの転移を起こします。
手術以外の標準的治療としてジェムザールという抗がん剤の治療がありますが、治療効果の主体となる「がんの消失・縮小」は決して高いものではありません。 最近、胃がん・大腸がんに対する抗がん剤であるTS-1が膵がんにも有効である可能性が臨床試験で認められておりますが、未だ臨床試験中の段階であり、保険適応の標準治療にはなっておりません。
外科的に手術が不可能な場合、疼痛緩和を目的に放射線療法が実施される場合もあります。
膵がんに対する免疫療法では、残念ながら今までにエビデンスのある効果的な免疫療法は確立されておりません。
国内の臨床試験としては、東京女子医科大学病院でMUC1ペプチドを用いた樹状細胞療法や活性化自己リンパ球移入療法が、東北大学病院で樹状細胞の腫瘍内局注療法が、山口大学でMUC1特異的CTL療法などが実施されましたが、いずれも少ない患者数での経験しかなく、有効性についてははっきり断言できるまでにはいたっていません。
海外では遺伝子治療も含めていくつかの臨床試験が実施されておりますが、現時点では各治療法の安全性を確かめている段階で、治療効果については評価されておりません。
このように、膵がんの治療は現在でも極めて困難であるため、外科手術、抗がん剤治療、放射線治療の選択肢を重視しながら、樹状細胞や自己リンパ球を利用した免疫療法を積極的に取り入れていく必要性が検討されております。
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腎臓がん(腎細胞がん)
腎臓がんに対する免疫療法では、今までに多くの臨床試験が実施されております。すでにサイトカインの一種であるインターフェロンやインターロイキン2が腎臓がんの標準治療薬にもなっており、現在あるがんのうちでも、その治療に免疫的作用が抗腫瘍効果として強く発揮する疾患と考えられています。
細胞療法としてはLAK細胞(活性化リンパ球)を用いた養子免疫療法が国内外で広く行われ 、有効性が複数の施設より報告されています。 最近では、自己のがん組織を利用したワクチン療法 、新しい免疫細胞であるγδ型T細胞療法、CD3/CD28抗体活性化Tリンパ球療法、ワクチンとリンパ球の併用療法などの臨床研究が進められています。その中には遺伝子導入を利用した免疫遺伝子治療も研究されております。
海外では遺伝子治療も含めていくつかの臨床試験が実施されておりますが、現時点では各治療法の安全性を確かめている段階で、治療効果については評価されておりません。
しかし、現時点では十分なエビデンス(証拠)が証明された細胞療法・遺伝子治療はありません。しかし、腎臓がんに対しては有効な抗がん剤が少なく、放射線治療も効果が少ないため、標準治療の選択肢があまりないことから、免疫療法が積極的に試みられています。
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前立腺がん
現在、前立腺がんに対する免疫療法で世界的に注目されているものに、米国デンドリオン社が開発した「プロベンジ」という樹状細胞ワクチンがあります。 これは前立腺がんによくみられるがん抗原であるPAPと、樹状細胞を誘導するサイトカインであるGM-CSFを合わせて用いた樹状細胞療法です。 これはホルモン療法が効かなくなった前立腺がん患者を対象に行われた臨床試験で、参加した19人の前立腺がん患者のうち、3人が前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAの数値が低下したと報告されています。 さらにその中の1人はPSAが正常値範囲まで低下したまま4年間持続したと報告されています。
この臨床試験は最終段階に入っており、ホルモン治療が有効でない前立腺がん患者に対しての標準治療になるのではと期待されております。 また前立腺がんの別の抗原であるPSMAを用いた樹状細胞療法も報告されております。 この研究に参加した前立腺がん患者25人中8人(30%以上)に治療効果があったとされています。
まだそれほど多くの報告があるわけではありませんが、前立腺がんに対する免疫療法は大きく期待されている治療法の一つだと考えられます。
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参考文献一覧
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